リスボンレポート2012年春 その7【その他】(最終回)

 最後に雑多なレポートを一つ。

 毎回リスボンへ行く理由は様々なんですが、もちろんプライベートの用事も合間合間に入れています。留学から10年が経とうとし、お世話になった方も数名鬼籍に入っていますので、お墓参りも大切な用件です。
 今回もいくつか共同墓地を回りましたが、行く度にカルチャーショックを受けます。日本のお葬式でも各宗派や各地方での作法が違って、無宗教の私としては面白いなあと思うのですが、親しみのある宗教が違うぶんお墓やお墓参りの意味合いも大きく違って興味深くさえあります。
 もちろん本で読んだり映像で見たりして知識や情報としては頭にあるのですが、実際に肌で感じるのとは少し違いがあります。
 ポルトガルへ何度も行かれたことのある方は、次回は一度共同墓地へ足をお運びになってみてはいかがでしょうか。
ベンフィカ共同墓地

Cemitério de Benfica
Estrada Arneiros Cemitério -, Lisboa
地下鉄 Colégio Militar/Luz駅より徒歩10分

 今回最も驚いたのは、頻繁に自転車を見かけたことでした。そもそも坂ばかりで、しかも石畳のリスボンに移動手段として自転車が適しているとはとても思えません。それゆえに今まで競技以外でほとんど自転車を目にしなかったのは理にかなったことでした。それが観光用のレンタサイクルができ、自転車止めが置かれ、また地元の若者も自転車で行き来していました。
 元々自転車競技の人気が高いヨーロッパにおいて近年の日本のような自転車ブームが改めて起こっているとは考えにくいところですので、いわゆる「エコ」と「健康」がキーワードかなというのが一応の推察です。
 先だってのレポートでもご紹介した、ポルトガル国内の各交通機関を網羅した非常に便利なサイトがあるのですが、そこでも移動で排出されるCO2の量を算出してくれます。そういった意識に対する心象は置いておくとして、日本よりも緯度の高い国がほとんどを占めるヨーロッパではシビアな問題なんだなと再確認しました。
Ciadoの自転車止め

 ポルトガル料理といえば何かとバカリャウ(干しだら)の料理が取り上げられがちですが、もちろんそればかり食べているわけではありませんし、海鮮ならタコやイカ、肉ならモツまでしっかり食べます。
 滞在中、朝食と夕飯は自炊することが多いのですが、ランチは地元の人も利用する食堂で採るのがいつものパターンです。ガイドブックに載っている立派なレストランでなくともおいしいお店はたくさんありますし、定食が安いのは万国共通のお約束。
 私が良く利用するのは地下鉄Avenida駅近くの「Tio PePé(ペペおじさん)」というお店。その名のとおり、店主のペペが切り盛りしているお昼だけの食堂です。最近は店に入っただけで日替わり定食と炭酸水のオーダーが通るようになり常連気分で嬉しいのですが、たまにビールやコーヒーが飲みたいときには、それが善意の行為なだけに困ってしまいます。ポルトガルではありがちですね。
 今回はファディスタの高柳たくちゃんの馴染みのお店にもお邪魔しました。それにしても、ポルトガルの食堂で飲む赤ワインは、なんであんなにやさしい味がするんでしょう。
ペペの店

 相手に対してどれだけ時間を使えるかが愛情の深さであるという昔の女子バレー日本代表監督の言葉に従い、リスボン滞在時はなるべく師であり「父」であるAntónio Parreiraと時間を過ごせるように努めています。
 いつもは昼にファド博物館でレッスンの手伝いや代行をするのですが、今回は著書の原稿締め切りが近いとのことで、掲載する楽譜作成を頼まれました。Parreiraはあの世代(65歳)のポルトガル人には珍しく楽譜の読み書きができ、過去にも古典ファドを楽譜にまとめた実績があります。その知識はリスボンに出てきた若いころ「バイオリンを弾く靴屋に習った」とのことで、のどかだったころのリスボンがなんとなく連想されます。
共著なう
 いつもは休みの日を利用して彼の実家であるAlentejoのSão Francisco da Serraという小さな村へ1泊か2泊でご一緒するのですが、今回は多忙で行けず。彼のお母さんのお墓参りがかなわなかったのは残念です。高血糖対策の散歩も田舎のグラウンドではなく夜の仕事前にCasa do Fadoの近所をぐるりと歩く形で。
 私自身は歩くのが好きなので散歩には喜んで同行しています。車の中で話すよりも歩きながらのほうが、ふとした疑問やアイデアを交換したりそれらを膨らませたりというサイクルがスムーズなので、私にとっても貴重な時間です。今回も、散歩しながら意見の交換をし、店の楽屋に戻ってそれを検証するといったことの繰り返しで見解を深めてゆきました。その結果、新たな疑問もどんどん生まれるわけですが、滞在時間に限りがありますので日本に持ち帰って整理してからメールや次回の滞在時に持ち越します。
 いくつかの話題が持ち越しになった際に、Parreiraはいつも日本がスペインぐらいの距離にあれば良いのにと言います。それはこちらも同じこと。心に実際の距離は関係ないなんて平気で言う人もいますが、やはりポルトガルは遠い。何かあった際にすぐ駆けつけられる距離ではありません。因果な道を選んだなあと思いながら帰りのリスボン空港へ向かうのが、恒例の旅の締めです。

文責:1°(月本一史)