リスボンレポート 2013年6月 その4 【Casa do Fadoはしごシリーズ 周辺編】

Sr.Vinho
 はしご2日目。まずは良くも悪くもいろんな話を聞く高級店Sr.Vinho。そもそもは男性ファディスタのRodrigoとギタリスタAntónio Chainhoが共同経営するところから始まり、今はこれまたいろんな話を聞く女性ファディスタMaria da Féがオーナーを務めています。
 入ってみたら師パレイラの長男で私の「兄」Paulo Parreiraの奥さんがホールの取り仕切りをしていてびっくり。なるほどここで知り合ったのね。この店のレギュラー伴奏者は彼です。「あら、アレンテージョで会って以来ね。でも残念、旦那はポルトへCamanéの伴奏に行ってて今日はいないのよ」とのこと。彼の伴奏を聴きたくてきたというのも多分にありますので、実に残念。
 歌手は女性3名、男性1名、その後トリで女性1名。もちろんいづれも実力を備えたFadistaたち。Maria da Féは出演せず、店のオペレーションをしつつ、ファドの際は後ろで眼鏡を光らせていました。私の席からよく見えたのですが、2人目の歌手が3曲で上がろうとしたら「客を温められていないからもう一曲歌うように伝えて」とボーイさんを伝令に出し、”Marcha dos Centenários”を歌わせていました。とりあえず恐い。ファディスタたち(特に女性)も手抜きなく歌っている印象。1人目の子は1周目はガチガチで、2周目になってMaria da Féの目がなくなるとリラックスして歌っているように見受けられました。
 しかし、女性は全員ステージングが大きい。どこかで観た感じだと思ったらMaria da Féのそれ。いろんな関係者が「Sr.Vinhoは小さなMaria da Féが何人も出てきて、最後にMaria da Féが登場する店だよ」と言っていたことを思い出しました。30代後半より上の人にわかりやすく言うと、カプセル怪獣的な感じです。

住所:Rua do Meio à Lapa 18
(写真及び予約はリンク先をご覧ください)

Nelo
 「いいものを見た」と玄人ぶった喜びかたをしながら次は午前2時開店のNelo。Fado Vadioなので私も楽器を持って行きました。
 Neloは男性ファディスタ高柳卓也(以下「たくちゃん」)なじみの店で、実は私自身留学をしていた11年前から師匠に「ここは2時からやってるんだぜ」と言われてずっと気になっていました。
 店のオーナーはそのまんま通称Nelo。切り盛りするのはその奥様。ロシア出身とのこと。そしてファドの現場責任者はたくちゃんの盟友にして伝説のヴィオリスタMartinho de Assunçãoの孫Vítal de Assunção。1年ぶりですねとの挨拶を済ませた後、ファドが始まるまでしばらく楽器だけで遊ぶ。せっかくなので彼のおじいさんと黄金コンビを形成していたFransisco Carvalhinhoの変奏曲をいくつか。その後も1時間ほどそのまま弾いていてネタに尽きたので、作曲者がビッグネームのわりにはこちらでもほとんど知る人のいないJaime Santosの変奏曲を弾きはじめると、一緒に弾いていたギタリスタのJoãoが「本当にJaime Santosか?聞いたことねーぞ」と。そこでVítalが「こいつら日本人と付き合ってるとこれが面白いんだよ」とニヤリ。そこから、今は客どころかファディスタでさえ伴奏者の名前を覚えていないということを熱をこめて語りだしました。
 しばらくしてファドが始まったのが3時半。集まった客がみんな順番に歌ってゆく中、エキゾチックな顔立ちの若い男性が現れる。妙にテンションの高い彼は、先祖に中国とアンゴラの血をもつというLuís。ヴィオラを弾いたり歌ったりした彼の義理の兄はCafé Lusoでギタリスタを務めるSandro Costaとのこと。Lusoで歌っているCristiano de Sousaは昔馴染みなんだと伝えると、兄貴に話を通しておくよと言ってくれました。
 店を出るとスズメの声。なかなかの経験をしました。
 しかし、誰も「なぜ日本人なのに~」といったことを聞いてこないのは、たくちゃんが彼らに愛された結果なのだろうなと、彼の人柄に感謝するばかりです。